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(公開: 2010年10月23日)

日本のマンドリン事情(1) アンケート結果

日本のマンドリン事情アンケートは、2008年にドイツ・トロッシンゲンで開催された「第4回マンドリン・シンポジウム」にて“日本のマンドリン事情”というテーマで講演を行なう為に、主にマンドリンを演奏する初期段階の教育事情の調査を目的として行われたものです。

このアンケートは2008年4月〜8月の間に行ないましたが、地域、年齢共に幅広い層の方々よりご協力いただき、計2,570件もの回答を頂くことができました。ご協力いただいた皆様に厚く御礼申し上げ、以下にアンケート結果と、それに対する私の考察ならびにシンポジウムでの内容も踏まえて発表させていただきます。

【1】回答者の居住地域分布と年齢

居住地域
北海道東北関東北陸中部関西中国四国九州
3.6%1.1%24.7%1.1%15.8%38.0%7.1%0.6%8.0%
年齢
10歳未満10〜14才15〜19才20代30代40代50代60代70代80歳以上
0.0%2.5%22.2%18.7%7.5%10.1%17.9%17.9%2.8%0.4%

非常に幅広い地域、年齢層の皆様からご回答いただき、資料としての有効性も高いものになったと思います。ご協力いただいた皆様に重ねて感謝いたします。

【2】現在、またはこれまでにマンドリン合奏でどの楽器を演奏されましたか?

演奏した楽器
マンドリンマンドラチェロローネギターベースパーカッションその他
46.1%21.9%10.1%1.1%15.7%3.7%0.2%1.2%

例えばマンドリンとギターの比率など、多くの合奏団に見られるよりもマンドリンの割合が多くなっています。これはアンケートの質問項目が明らかにマンドリン奏者を対象にしたものであったため、ギターを始めとする他の楽器の方からの回答が少なくなったものと思われます。

【3】何歳の時にマンドリン(またはマンドリン系楽器、ギター、コントラバスなど)を始められましたか?また、それはどのような環境でしたか?

楽器を始めた年齢
10歳未満10〜14才15〜19才20代30代40代50代60代以上
0.2%17.6%59.3%6.4%2.6%4.8%5.8%3.3%
環境
学生クラブ活動社会人合奏団個人レッスンその他
74.6%10.1%9.6%5.7%
学生クラブ活動の内訳
小学校中学校高校大学
0.1%19.3%31.7%48.9%
社会人合奏団の内訳
職場社会人団体
8.6%91.4%

この質問は、マンドリンの初期段階の教育事情に関して非常に重要な項目であったのですが、ここで注目すべきポイントは2つあります。

まず10歳未満で始めた人は皆無であることです。つまり現在の日本にマンドリンの早期教育は存在しないと結論付けることができます。(1970年代、比留間絹子氏により小学生のマンドリン教育は存在し、幼児用、子供用のサイズのマンドリンも製作されていました)

そして80%以上の方が合奏団に所属した上でマンドリンを始めておられることです(周知の通り、学生のクラブ活動がその中最大の窓口となっています)。つまり、初心者の段階から合奏に加入し、合奏をする中で上達を目指していくことになります。これは、日本のマンドリン最大の特徴である、「マンドリン=合奏」という形態を非常によく表しており、ここまでに「マンドリン合奏」という文化が定着した国は他に例を見ません。しかし逆に、それ以外の個人レベルでの演奏・指導といった室内楽分野が未だ普及していないことを強く示しているとも言えます。これらの結果は、ほとんどが小学生ぐらいから個人レッスンによる早期教育でマンドリンを習い始めるドイツの教育環境、またマンドリンがクラシックのコンサートホールでなく、酒場にて少人数で演奏される楽器であるスコットランドや南米などの演奏・音楽文化との違いを考えると、日本のマンドリン事情を特徴づける重要なポイントといえます。

【4】入団以降、合奏に入るまで練習期間はありましたか?また、どの教本をその時に使用されましたか?

練習期間の有無
練習期間があった練習期間なかった
79.9%20.1%
練習期間があった場合、その期間
1ヶ月以内1〜3ヶ月4〜6ヶ月7〜12ヶ月1年以上
7.9%49.6%27.6%6.1%8.8%
練習期間に使用した教本
オデルムニエルカラーチェその他
52.1%22.2%1.1%24.6%

練習期間はまちまちですが、1〜3ヶ月が最も多い回答となりました。また、練習期間があった中で80%以上の方が6ヶ月以内となっています。つまり、構え方からおおよその音の押さえる位置、音の出し方を習えば後は合奏で練習する、というような流れが一般的なようです。

シンポジウム参加者からは

  • 練習期間が短いこと
  • 20%の方々が練習期間無く合奏に参加しておられること

に対して驚きの声があがりました。

また、多くの学生団体においては、指導が学生同士(所謂プロ教師ではなく)で行なわれている、という点を補足説明しましたが、これも参加者を驚かせました。

教本に関しては次項目で考察したいと思います。

【5】これまでにプロ奏者の個人(またはグループ)レッスンを受講された経験はありますか?そのレッスンではどの教本を使用していましたか?

経験の有無
受講経験あり受講経験なし
50.7%49.3%
レッスンで使用した教本
オデルムニエルカラーチェその他
45.7%22.7%2.4%29.2%

およそ半数の方がプロ奏者のレッスン受講経験を持っておられます。

また、使用教本については、合奏前の練習期間と同様に、オデルマンドリン教本がほぼ半数を占めることとなりました(マンドリン以外の楽器の回答も含みます)。

日本では1903年比留間賢八氏著のマンドリン教本を初めとして、1959年までに80種類ほど出版されましたが、海外の著者の訳本はオデル、ムニエル、カラーチェなど、時代的にとても限られています(工藤哲郎氏の調査による)。オデルマンドリン教本の良し悪しでなく、より幅広い種類の教本や練習曲が入手しやすい環境になることが待たれます。

【6】これまでに独奏や二重奏など、少人数での演奏経験はおありですか?また、それはどのような編成でしたか?

経験の有無
少人数演奏経験あり少人数演奏経験なし
53.3%46.7%
編成について
無伴奏二重奏ピアノまたはギター四重奏その他
15.1%23.7%27.6%24.4%9.2%

およそ半数以上の方が、少人数(室内楽的な編成)での演奏経験があり、合奏中心の日本マンドリン界にあって意外な結果となりました。マンドリンオーケストラによる合奏以外の演奏形態も今後さらに普及していってほしいと思います。

【7】合奏団に指導される先生はいらっしゃいますか?

指導者の有無
指導者のいる合奏団指導者のいない合奏団
66.6%33.4%

この項目は、「指導者」の定義が曖昧になり、同一団体内からの回答でも意見が分かれたりしたケースがありました。私としては、所謂「プロのマンドリニスト、または音楽家」という意図だったのですが、解釈が分かれてしまったようです。

【8】合奏・独奏など問わず、好きな曲をお書きください。

この項目ですが、曲の略称が記入されたり、作者が記入されずに作品が特定できないケースが目立ったので、集計することが不可能でした。ただ、特にジャンルを指定しなかったにもかかわらず、やはりマンドリン合奏で演奏される作品が断然に多く記入されたことは、日本のマンドリンの現状を強く示しているものと思います。

このようにアンケートの結果から、日本におけるマンドリン初期教育事情として、

  • 10歳代以降で合奏団に所属して始める
  • 合奏に入るまでの練習期間は6ヶ月以内
  • オデルまたはムニエルによるマンドリン教本を使用(ロマン派のマンドリンのスタイル)

ということが浮かび上がってきます。上述の通り、これらは日本のマンドリン事情を非常によく表している特徴といえ、今回のアンケートによってこの特徴が数字ではっきり示されることとなり、海外の方にも説得力を持って聞いてもらえることができました。

ご協力いただいた皆様に重ねて感謝いたします。ありがとうございました。

2009年11月 柴田高明

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